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流汗悟動な人 #1

パラアスリート 澤田 優蘭
陸上 走幅跳び 100m

風をきって飛び上がる感覚が、好きです。

 初めて走り幅跳びをしたのは、小学6年生の体育の授業。「風をきって飛び上がる浮遊感が面白くて、中学生になったら陸上部に入ろうと思った。」障害者アスリートの澤田優蘭さんはそう語る。

視力の違和感を感じたのは6才。視力の低下を感じつつも、医師からは特に異常が見られないからそのうち治るよと希望のある言葉を聞き、特に心配はすることはなかった。しかし、中学生になり、急激に視力が落ち始めた。黒板の文字が見えず、学校生活にも支障がでるようになった。スポーツにしろ私生活にしろ、見えないことの不自由さに先の見えない不安が押し寄せる。視力が弱く、視野が狭い。上下左右が見えるが、真正面がまったく見えない。16才でようやく進行性の視覚障害であることを認識し、高校1年生からは盲学校に通い始め本格的にパラスポーツを始めることになる。

 走るときは少し視線を上げることで真っ直ぐ走ることができる。100m走はガイドランナー(伴走者)と一緒に呼吸を合わせて走り、走り幅跳びでは、踏切版を見て飛ぶことができないため、コーラーの「イチ、ニ、サン、シ!」の掛け声とともに決められた歩数で走る。自分の走りのリズムと掛け声が合っていないとズレるため、コーラーの声のタイミングと自分の歩幅を信じて、走る。踏み切る。正に阿吽の呼吸。

 大学卒業後は一般企業でフルタイムで働き、陸上からは一度距離を置いた。入社2年目にまた陸上を再開したいと思い、仕事の後の夜に練習を始めた。一人での練習だったが結果も出はじめて、厳しい条件下ではあるものの2016年のリオパラリンピックに挑戦した。結果、選考には残れなかった。世界のレベルに届かないことを痛感し、フィジカルトレーニング、ヨガなど様々なことにチャレンジし、今の自分をゼロから見直し鍛え直した。2017年世界選手権にはなんとしても出場したい。競技に専念して突き詰めたいという気持ちが芽生え、当時の会社を退職し、練習を強化して臨んだ2017年世界選手権だったが、あと一歩で出場を逃した。自分なりには一生懸命やったものの世界の大きな舞台に立てない悔しさが残った。

あと一歩で出場できなかった悔しさ。
つぎは、世界をめざしたい。

 2020年9月5日。WPA公認第31回日本パラ陸上競技選手権大会。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、10か月間試合がなかった。“試合勘”が十分に取り戻せなかったこともあり高いパフォーマンスは出せなかったが、それでも結果が出たな、まだいけるなという感覚を得た。今のトレーニングとかみ合えば今年は自己ベストが出せそうだと話す。11月7、8日の、パラリンピックの選考に関わる関東パラ大会を控えている。
今シーズンの目標は?の質問に、「幅跳び自己ベスト5m70cmを越える記録、100m 自己ベスト12秒39ベストを切る12秒1は出したい。ただ出場するだけでなく、出るからにはメダルを獲りたい。」と力強く笑顔で答えた。

 澤田選手の視線の先には、明るい未来の光がはっきりと見えているようだった。更なる高みを目指し、自分の限界を更新していく澤田選手は、“流汗悟道な人”と言い得て妙。視線の先には、明るい未来の光がはっきりと見えているようだった。

(Interviewer: Azumi Kawakubo)

澤田 優蘭 さわだ うらん/ Sawada Uran

障がい者アスリート。高校で盲学校に進学したことで、障がい者スポーツに出会う。 高校二年生の時に北京パラリンピックに出場。走り幅跳びの選手として、国内外の様々な大会で優勝するなど、これまで数々の実績を残している。東京パラリンピックへの出場、メダル獲得を狙う。

生年月日 1990年10月24日
出身 埼玉県
競技名 走り幅跳び 女子 T12 / 100m 女子 T12

giovanni
2chic ダメージ シャンプー、
2chic ダメージ コンディショナー

澤田選手の愛用ヘアケア。遠征にも持っていくほどお気に入り!
髪のダメージを補修し、ツヤと潤いを与える人気シリーズ。
フルーティなココナッツの香り。

Kaoru Saito's Column

流汗悟道………
いよいよ本気でエシカルを
行動に移さなければと
思う時、
知っておくべき1人の女性の物語がある。

「クリーンビューティ」という言葉をさまざまに目にするようになった。これまでオーガニックやナチュラルなものに関心のなかった人ですら、自分が選ぶべきものはそれなのだと気づいたかもしれない。ただ本来それは、「化粧品たるもの、人や動物、環境に害を及ぼしてはいけない」という提言に近いもの。もちろんオーガニックコスメやナチュラルコスメが終始訴えてきたことであり、サスティナブルやフェアトレードという開発姿勢も含めた、“エシカル=正しいこと”を分かりやすく訴えているものに他ならない。つまり大きくは、人を美しくするものこそ、森羅万象全てを美しく保つものでなければいけないという、哲学にも等しいこと。生き方そのものから正さなければいけないような価値観の提言なのだ。

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ただその考え方を、100%妥協なく、具体的な形で実践するのは並大抵のことではない。「クリーンビューティ」がトレンドになってもならなくても、ずっと昔からそれを実践し続けてきたブランドに、今こんなふうに世の中がその価値を認めるようになったからこそ敬意を表したいと言う気持ちにもなってくる。

今からちょうど100年前、1921年創業のヴェレダというブランドがある。その歴史の長さだけでも群を抜くが、それ以上に、今に続くクリーンビューティをまさに哲学として確立し、100年前に既に形にしていた驚くべきブランドと言っていい。

ヴェレダと言うと、創設者としてのルドルフ・シュタイナー博士が有名だが、この人は「人智学」を説き、「人体にはすばらしい自己治癒力が備わっていて、それを助けるのが地球の恵みである天然原料だ」と訴え、人間と自然との神秘的でもある関わりを見事に説明して見せた人。でもその影に、創業者の一人に名を連ねる女性がいた。イタ・ヴェーグマン医師。セラピーとしての体操やマッサージを学び、26歳で医学校入学。女性の病気を専門に学び、人智学を具体的な手段として、植物エキス配合の化粧品にまで発展させた人なのだ。この時代に女性が医師になる信念の強さに加え、資金不足に陥ると、どこからか資金を調達してきたという実行力も、またヴェレダ設立の一方で、精神障害をもつ子供たちのための療養施設を作ったと言う正義感まで、いかに並外れた情熱とエネルギーの持ち主だったか。今改めて、こうした女性の存在に思いを馳せると、なんだかちょっと胸が熱くなる。

「流汗悟道」という言葉がある。人間は汗を流して初めて、物事の本質を知る。知識は知識でしかなく、真実はその知識を実践し体験しなければ感じ取ることができないという仏教的な教えを宿す言葉。じつはコスメキッチンが2021年の年間テーマとして掲げた言葉でもある。コロナ禍の問題も含めて、今まさに地球環境の変化がさまざまに人間を脅かしている現実を目の当たりにすると、いよいよ本気でエシカルを行動に移さなければと一人一人が思いを新たにしているはず。その時、是非ともこうした女性が100年前にいたことを胸に刻んで欲しい。彼女の想像を絶する努力や諦めない心、実際に事を起こすパワー、そういうものに心を動かされて、自分も何かしたいと思う、それがエシカルの第一歩となるはずだから。その大切なことに、今こそ気づいて欲しいのである。

Kaoru Saito Kaoru Saito

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