Kaoru Saito’s Column

FULLMOON

2024年8月 水瓶座の満月🌕

敗者が勝者を称える時、
そこに生まれるのは、一体何なのか?

● あなたが負けた時、相手を祝福できますか

例えば“1つの幸福”を2人で取り合って、自分が負けた時、あなたは相手を祝福できますか?
単純に考えれば、日常においてそんな状況にはなかなかならないから、イメージするのは難しいのかもしれない。でも例えば、仕事の成績をライバルと競うような場面をちょっと想像してみて欲しい。そこで敗者になった時、勝者を心から祝福することができるのかどうかということ。
正直、これは非常にハードルが高い。でもつい最近、私たちはそれを何度か目撃した。オリンピックの体操男子、日本が金メダルを取った時、痛恨のミスで金メダルを逃したにもかかわらず、中国のエースが、そのミスを犯した同僚を一生懸命慰めつつ、日本に温かい拍手を送っていた姿は、感動的だった。
そしてまた、卓球女子シングルスでも、死闘の末にメダルを逃した韓国人選手が、日本人選手に笑顔で近づき自らハグをした時、これもまた胸が熱くなったもの。


●彼女はなぜ、笑顔でハグできたのか?

もしも自分がその立場なら、相手を祝福できただろうか? いやきっとできないと、思う人が多いのだろう。普段は心優しい人だって、負けを悟った瞬間に、表情を和らげて「おめでとう」と言える自信など持てないはず。
だからこそ、あんな場面で相手を祝福できる人がいることに衝撃を受けたはずなのだ。
だいたいが常に勝ち負けを競っている人が、なぜあんな表情ができるのか、それこそ泣き叫んでもおかしくないのに。

おそらくこれは、何度も何度も勝負に負け、辛い経験をしてきたからこそ、今それができるようになったのではないか。なぜならば、負けた人間は、相手を早々に祝福してあげたほうが結果として自分が楽になるから。

そう、これは経験した人でなければわからない。それこそ、本気で努力した末にライバルに負ければ、悔しくて悔しくて、放っておけば相手を恨むような気持ちにもなるのだろう。
今回のオリンピックでも、試合内容が不満なのか、悔しさが先に立つのか、敗者が試合後に握手もしない光景はいくつかあった。
相手にネガティブな気持ちが向くのは、あまりの屈辱に平常心を失うからなのだろうが、おそらくそのまま相手を恨んだり拒んだりしているうちは、負けた苦しみは消え去らない。むしろもっと屈辱を心に貯めていくことになるのだろう。


●相手を祝福すると、自分が救われる不思議

逆にそういう時、心を強く持って相手の健闘を称えてあげられた時、自分自身が救われる。相手を祝福してあげられた時、不思議なことに自らを深く傷つけていた屈辱がするすると消え去り、なんと自分まで幸せな気持ちになってくるのだ。
以前もこのコラムで、人を褒めると「オキシトシン」という幸せホルモンが生まれて、自分まで幸せな気持ちになれると言うことを書いた。じつはこの場合も同じ、相手の健闘を讃え、勝利を祝福してあげた時、まさにオキシトシンが生まれて幸福感に満たされることになるのだ。

きっと卓球の韓国人選手は、あの笑顔のハグで、そうした屈辱を幸せに変えていたのではないだろうか。経験的にそうなることをどこかで知っていたのではないだろうか。

いずれにしても、敗者が勝者を称えることができるって、1番難しいことだからこそ、私たちはあの20歳の女性にとても大切なことを学んだ。いつかそんな場面に出くわしたら、悔しければ悔しいほど、この話を思い出して相手を讃えてみて。例えば、どうも好きになれない人が、自分よりも先に責任ある立場になってしまったような時、悔しさ辛さはひとしおだろうけれど、そういう時こそ笑顔で「おめでとう」を言ってみよう。きっと苦悩が消え、深い安らぎやってくるから。

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Kaoru Saito

齋藤薫

美容ジャーナリスト
/エッセイスト

齋藤薫

美容ジャーナリスト/エッセイスト

女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。最新刊は初めての男モノ『されど、男は愛おしい』(講談社)。また『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)他、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など多数。